製品コンセプト
「buøy」は、捨てられたプラスチックから捨てられないプロダクトをつくることを製品コンセプトとしています。その具体的な手段として海洋ゴミとして漂着しているプラスチックを、美しい製品に生まれ変わらせようとしました。
技術の基盤は横浜にあるプロダクトデザインの会社(テクノラボ)内で始まったPlas+techというプロジェクトから生まれています。より美しいプラスチック素材の作り方にはどのような新しい方法があり得るだろうか? 一連の活動の中でプラスチックを大量生産素材と考えるのではなく、一点もののプラスチック製品として製造する技術が生まれてゆきました。
この活動で生まれた多種類のプラスチックを混ぜることで新しい美観を作るという技術が、多くのプラスチックが混じりあって分別できない海洋プラスチックごみの再生にとても適していたのです。 こうして「buøy」という製品のひな型が誕生しました。
またPlas+techの活動をしていたテクノラボの社員にとって、プラスチック素材は日頃扱っているものです。 それが社会的に非難の対象となることは、自分の子供の悪事を批判されているのと同じような感情を抱くものです。
特に大きな批判対象となっている海洋プラスチックごみを「buøy」という製品として再生することは、私たちにとって当然の流れでしたから。
“プラスチックの工芸品”を目指した理由
海洋プラスチックごみについての議論を進めてゆく中で、私たちは一つの結論に至りました。
プラスチックは腐らないために、とくに環境に与える影響が大きいと考えられています。 ですが例え朽ち果てる木材や紙であっても、それが大量に製造、廃棄されれば大きな悪影響を与えることに差異はないのではないか? そもそも1970年代には環境破壊につながる木材利用を減らすプラスチックはエコな素材と呼ばれていたのですから。
結局私たちが余りに便利さを追求する中で、プラスチック製品を作る製造業者がそこに迎合しすぎたことこそが原因なのではないか?
そう考えると問題の本質はプラスチック素材というより、大量生産大量消費という私たちの習慣にこそ病根があると思い至りました。だから私たちが「捨てなくなる」ためにはどうしたら良いのか、そうした議論を重ねてきました。
私たちがプラスチック製品を安易に廃棄してしまうのは、プラスチックの製品が「安く」て、かつ捨てても「同質だから取り換えが利く」からです。もし美しく、世界でたった一つの自分だけのプロダクトで、かつ安価でないものを誰も捨てることはありません。
Plas+techプロジェクトの中で生まれた技術により、作られるプラスチック製品が世界にたった一つしかない工芸品になったら、それは捨てられることがない。
そして大量生産品ではない工芸品を目指すという「buøy」が誕生したのです。
buøyを作る上で苦労したこと
「buøy」が誕生する前のPlas+techプロジェクトの段階では、果たしてプラスチック素材は工芸品になりうるか、という点に大変な苦労をすることになりました。
プラスチック素材はそもそも大量生産を前提としているので、工芸品として一品ずつ作るという製造方法は一般的ではありません。昨今の3Dプリンターは確かに一品ずつの製造にはなりますが、それは工芸品としての美観を持つとは言い難いものです。それ以上にデータから同じものを反復して作ることを工芸品と呼ぶことにも抵抗がありました。
そこで私たちはプラスチックの素材そのものに着目しました。プラスチックは熱で溶けるし冷やせば固まるもので、元々飴や蝋と同じ特性を持っています。べっこう飴を作るようにプラスチックで製品を作れないか?
長年のプラスチック製造のノウハウを使い、色々な角度からプラスチックの原材料を成形する方法を考え、現在の製造方法に行き着きました。熱と圧力を掛けながら一定の条件でプレスすることで、プラスチック素材は半分混じりあいつつ完全には混ざらない、モザイクのような美しい成形板を作ることが出来るようになります。
この製法によると、様々な種類や色のプラスチック素材をそのままの状態で一つの製品にしてゆくことが出来るので、これまでにない様々な質感や色の組み合わせを作り出すことが出来、しかもそれは毎回1つしかないものになり得ます。
ガラスや木材では決して生み出すことの出来ない色合いや質感を、工芸的に生み出すことが出来る点で、私たちの目指す世界にふさわしい製造手法だと思っています。
ただし「buøy」を作るために海洋ゴミを素材としたことには非常に苦労させられました。海岸に落ちているプラスチックには様々な種類があり、全て同じ種類のプラスチック素材を集めて製品を作ってゆくことは非現実的です。そもそもゴミに原材料のラベルがついている訳がないのですから。
原料が何か分からない異なる種類のプラスチックを同時に成形してゆかざるを得ないので、製造条件の安定化に大変なかなりのコツとノウハウが必要となりました。
そしてそれ以上に大変だったのが原材料としてのプラスチックゴミの収集でした。当初は私たち自身が湘南の海辺でプラスチックのゴミを集めていました。しかし大量に製品を作るほどのゴミを集めることは至難の業でした。
ボランティア団体さまとの共働
転機となったのがクラウドファンディングの実施です。「buøy」製品の市場評価を見るためクラウドファンディングを行いました(当時は「rebirth」という名前でした)。このクラウドファンディングの活動を支援して下さったのが全国のゴミ拾いボランティア団体の方だったのです。そして彼らから自分たちの集めた海洋ゴミを使って欲しい、と申し入れを頂いたのです。
私たちは捨てられてしまったプラスチックが可哀そうで、それをもう一度社会の役に立つ存在に戻してあげたいと考えていました。ところがボランティア団体さまは自分たちの拾ったゴミが虚しく捨てられてゆくのが辛かったと仰って下さったのです。
海洋ゴミの漂着に困っている団体と、そうした海洋ゴミを素材として魅力ある工芸品を製造したい「buøy」が協働することが出来れば、とても面白い試みになるのでは?
だから「buøy」の製品全てには、そのゴミの採集地が記載してあり採集地の団体さまの情報をサイトに記載することとしています。