なぜ私たちがやるのか ‐buoy創業者の思い‐

「プラスチック」は私たち人類が初めて自分たち自身で創り出した「素材」である。
木や石や皮や鉄、人類は全て自然が与えてくれた素材を使って暮らしてきた。しかし20世紀の半ばに、人類は「プラスチック」という極めて利便性が高い素材をデザインし、誕生させた。美しく賦形が自由で、腐らず軽量、さらに安価でもあるプラスチックは瞬く間に人類の生活に浸透していった。未来を象徴する素材であっただけでなく、森林伐採を減らすエコロジカルな素材の代表にもなった。
プラスチックの誕生には人類の技術への思いが詰まっている。だから私はこの素材が大好きだし、これまでプラスチック産業に従事してきたことに誇りを持ってきた。
私が海岸に漂着する膨大な量のプラスチックゴミを初めて見たのは2017 年のことだ。
人を幸せにするために生み出されたはずの素材は、快適な生活を願う製造業者によって世に送り出され、そして人の欲望を満たした後、飽きて投棄され、漂着地の人を苦しめていた。プラスチックは人の幸せを奪うものに変化した。素材として圧倒的な長所である「腐らない」性質が、ゴミになると生態系を脅かす原因になった。
人類は自らが幸せになるために作った技術や素材によって、幸せになるのか不幸になるのか?海岸漂着プラスチックゴミの問題は、まさにこの質問と対をなしている。プラスチックに関わる業界人は、この問題に向き合わなくてはならない。
だからプラスチック業界人として私は海岸漂着プラスチックゴミの問題を解決することをbuoy という事業の目的に掲げた。便利になりたいという人の我利と、役に立ちたいという利他を共存させたいと願っている。
プラスチックを再生するには既に色々な方法がある。ただしどれも致命的な問題を抱えている。ナフサから新規に材料を作り出すよりもコストがかかってしまい、そのくせ品質は低くなるのだ。
国際協調してナフサに高額の課税を行うことが出来れば、こうしたリサイクルの問題は相当程度解決するだろう。新しいプラスチック素材が高くなり、再生するプラスチックが相対的に安くなるからだ。
でもこうして政策的に解決するには利害調整にかなりの時間が必要だ。プラスチック業界は多くの雇用者を抱え、抵抗は想像以上に大きい。私の残った人生で解決まで手が届くとは思えない。にも拘わらず海洋プラスチックごみ汚染によって海洋に残された時間は、認識されているより遥かに少ない。
どうすれば良いだろうか?
そもそも私がプラスチック素材を好きなのは、それを作った先人の開発を思うと「心躍る」からだ。だからそんな心躍る解決法を考えよう、そうしてもがいて生まれたのがbuoy の製造技術だ。人は経済要因だけを見ているのではない。新しい付加価値をプラスチックごみに付与することに、製造技術を特化させることにしたのだ。
ごみ100%で作る製造技術にこだわったことで、出来上がった製品の模様は一つ一つ全て異なる。全ての完成品に採取地を記載しているから完成品はその時のゴミの記録になりえるし、採取者を記載していることで購入者は人のつながりを理解することが出来る。思うにプラスチック製品が捨てられる理由の一つは、作る人の顔が見えないことに理由があった。私の好きなプラスチックという素材は、このように人と人とが愛情や喜びによってつながることで発展してゆく方向に進むべきだ。
海岸に漂着するプラスチックごみの問題を調べてゆく中で、別の大きな問題に気が付いた。供給者は排出されたプラスチックの回収まで関わる必要性がある。フィリピン、インドネシアといった島しょ部を多く抱える国は、廃棄物回収の静脈物流を構築するのに非常に高額な費用が必要だ。ゴミ回収ができない
地域も存在する。でも腐らないプラスチック製品には回収のための静脈物流が必須なのだ。プラスチック製品を供給してきた業界人として考えなくてはならなかった問題点だ。今やこうした島しょ部にも大量のプラスチックが流れ込んでいる。
プラスチック廃棄物の処理に苦労している地域に対して、製造責任として回収の仕組を提供する必要があると強く思う。水道哲学があるなら下水道哲学もあるべきだろう。buoy 事業が排出された海洋プラスチックだけでなく、排出源にリサイクル装置を提供しようと考えるのは、製造責任を全うするためだ。
もう一つ、buoy の製造技術は素材を選ばない。それはあらゆるプラスチック素材をリサイクルできるポテンシャルを持つということだ。欲張りな話だがリサイクルによって海洋環境そのものを保全する漁礁や藻場礁などの製品を作ることもできる。ここまでやれたら魅力的だ。その時醜かったプラスチックごみは美しい資源に変わるだろうから。
これからも私たち人類がプラスチック素材と関わり続けてゆかざるを得ないことは確かだ。私の残りの人生では、ここに挙げた全ての解決策さえ完遂させることは難しいかも知れない。だが未来の技術者はもっと魅力的な出口戦略を生み出し続けるはずだ。
なぜならプラスチック素材は、まだわずか100 年に満たない歴史しかないのだから。

【目指すもの】

日本やアジアの海岸で、河川で、朽ち果てることなく集積しているプラスチックごみを無くすこと。
「いつかなくなるために存在するブランド」というのが、’buoy ブランドが目指す世界です。

【個人的背景】

プラスチック産業への愛着

この事業は創業者である林光邦の個人的な思い入れが強く反映されてスタートしています。
初期のプラスチック素材研究者であった祖父にかわいがられて育ったことから、林は物心ついた頃からプラスチックに慣れ親しんできました。当時(1970~80 年代)は高度成長の余韻と(繁栄を謳歌する)ミッドセンチュリーの文化が色濃く、プラスチックは人類の未来に明るい素材と社会では認知されていました。
その後斜陽となってゆくプラスチック産業にあり続ける中で、プラスチック素材の持つ弊害が顕著に報道されてゆくようになります。
「プラスチックは人類が初めて自分たち自身で創り出した素材」である以上、人類にとって良きものであるという根底的な思想を、林は長く有していました。
大学在学中から父が運営するプラスチック工場に入り、工場運営を手伝って来たのもそうした未来をプラスチック素材に感じていたからです。
プラスチック産業の将来への不安プラスチック産業自体は斜陽になり、父の工場も倒産したことで、林は工場ネットワークのベンチャー企業に入りますが、より広い視点でプラスチック産業と関わり続けていました。しかし2000 年代前半からフィリピンのスモーキーマウンテンなど、廃棄プラスチックの問題が徐々に大きな課題として報道される中で、その思想の正当性にたいする不安も持ち始めました。ボランティア団体等に聞くところでは、日本の沿岸に漂着する
プラスチックごみは2010 年代の中後半から急速に増加していると言われました。
九州北岸地区や北陸でのごみの漂着実態を体感したのが2016 年で、その頃には膨大なプラスチックごみを見てプラスチック素材に対する幻想を捨てざるを得ませんでした。
私たちプラスチック製造業者が社会に善かれと思って努力していたことは、けして社会の為になっていなかったことを痛感しました。

【開発の経緯】

 

プラスチック産業主が取り組む必要性

はじめにごみの回収ボランティアの方から聞いた話が「回収することの虚しさ」です。漂着したプラスチックごみには塩分が付着し、貝類が付着していることからリサイクルには向きません。どの地域においてもほぼ100%海岸漂着プラスチックごみは埋め立てまたは焼却処分されていました。そしていくらゴミを拾っても増えることはあっても減ることはありません。
プラスチックを作ってきた立場として、これは製造してきた自分たち自身が本来行うべき活動だと感じました。

 

既存のリサイクル手法の限界

プラスチックのリサイクル技術は1990 年代に大きく前進しました。
PET という当時としては比較的新しい素材が世に普及してきた時期に合わせ、プラスチック素材の体系的なリサイクル体制が日本や欧米社会に構築されました。1992 年のリオ宣言もこれを後押ししています。当時PET素材のリサイクルシステムの誕生に私も非常に興奮した記憶があります。今多く存在しているケミカルリサイクルの原型も、ほとんどがこの時期に成立しています。
しかしこうした活動は2000 年以降、先進国では消失します。中国が大きく経済成長して行く中で廃プラスチックが中国に買い取られることになったためです。良質の廃プラスチックはリサイクル原料として、質の悪いものはコンクリートを焼成する際の助燃材として使われるので、世界中の廃プラスチックが中国に買い取られてゆき、日本や欧米諸国のリサイクル工場は原料の入手先を失ったので、廃業を余儀なくされました。
2010 年代後半から海岸漂着プラスチックごみは急速に増加しています。これは中国の経済成長低下によるリサイクル需要の急減と相関関係にあります。景気減速により廃プラスチックが中国国内でも不要になり、結果として積みあがったごみの一部が流出していると言えます。
世界には、まだインドやアフリカといった中国の次の成長先が残っています。短期的視点からバーゼル条約などによってプラスチックごみの他国への移送を禁止し始めていますが、廃プラスチック需要が高まれば骨抜きとなって、また廃プラスチック素材は移動してゆくでしょう。過去の失敗を繰り返さないために、単に表面的な技術だけではない抜本的なサーキュレーションの仕組みが必要なのだと痛感しています。

あるべきリサイクル手法

プラスチック素材は、人類がより便利で快適な生活を送るために誕生した素材で、それが存在意義ですから人類の幸せに貢献するリサイクル手法に収れんすべきです。
腐敗分解しないことは素材特性としては素晴らしい特性ですが、不当に投棄されるプラスチックごみが増えた現在では、耐腐蝕性の高さが仇になって生態系に悪影響を及ぼしています。
ですから常に効率よく回収・リサイクルされる仕組みを作り、不当に投棄されるプラスチック素材をなくして社会を循環させることが求められます。
現時点で可能性が高いケミカルリサイクルを使う場合、仕組みの実効性を確保するために市場に流通するプラスチック素材の種類を大幅に制限し、またリサイクル材料が流通するように国際的に広範な協調課税(ナフサ税など)を行って新材料の価格を引き上げる必要があります。
既にこの問題に取り組んでいる企業があり、期待を抱いていますが決着には数十年の時間が必要です。と同時に既に排出してしまった多種のプラスチック素材を回収する問題も残ります。

2024 年に現実的な解決方法

私たちは現実に排出されてしまったプラスチックごみを如何に社会に還元するか、という点に焦点を絞って社会問題を解決することにしました。そして漂着プラスチックごみには以下の問題が存在します。

問題① 海岸に漂着するプラスチックごみは、再生できない

海岸に漂着するプラスチックごみにはラベルが貼ってある訳ではないので、種類ごとに分別することが
出来ません。シリンダーを用いた普通のメカニカルリサイクルでは再生することが出来ないのです。
また海洋を漂流したプラスチックごみの表面には貝類が付着し、あるいは塩分を含んでいて、ケミカル
リサイクルすることもできません。
海岸漂着プラスチックごみが、焼却か埋め立てられてしまうのはこうした理由からです。

問題② 海岸漂着ゴミの回収処分費用

回収されたゴミは一般廃棄物として漂着市町村の歳費で処分されます。資源になることもないため、最終処分施設をもたない離島部などではその回収処分費用は馬鹿にならず、住民に回収禁止を命じる地方自治体もかなり存在しています。

問題③ 社会の無理解と供給者責任の不在

漂着地は日本海沿岸や離島部が中心で人口が多い地域はほとんどないため、海岸漂着ゴミの問題は実態よりもかなり過小評価されています。
またプラスチック製品の供給事業者も、最終の回収工程を各地方自治体にゆだねて来た歴史から自分たち自身での回収責任を感じづらくなっており、回収しやすい設計や供給手段を取っていません。
以上から、まず問題①の状況でも再生でき、問題②の費用をクリアできると共に問題③のように多くの人に実態を伝えるような解決方法が望ましいと考えました。
特に多くの人に知ってもらうため、ゴミとして発生したものはゴミのカタチを残したまま再生することが重要だと考えました。
そうして生まれたのがbuoy の製造技術です。メカニカルリサイクルの一種ですが、素材を分別せずに再生できますし、何より出来上がった製品が美しく、「心躍る」製造技術です。

 

最終のゴール

プラスチックごみの海洋流出はアジア諸国が主体となっていますが、背景に経済が強く存在します。
例えば最大の流出国である中国は、世界のプラスチック製品の製造を一手に引き受けていますから、素材としてのプラスチックごみを多く受け入れてきました。景気後退によって市場需要が減ると、受け入れたプラスチックゴミの価値が下がり、不法投棄の対象となりえるのです。
また島嶼部が多いフィリピンやインドネシアでは、先進国で使われる高額で大規模集約的なゴミの処理装置が導入できないので、プラスチックごみを回収する仕組みが貧弱です。
’buoy 事業が目安にしている一つのゴールは、この仕組みを使って自律的に海岸漂着プラスチックごみが回収されていくようにすることです。そのために単なる再生技術ではなく、プラスチックごみに経済性を持たせる仕組み作ることをゴールとしています。
’buoy 事業では、プラスチックゴミの出口を「美しい心躍る商品」からスタートし、ゴミを回収することがビジネスになる「装置」を提供し、やがては「ゴミで出来た製品が海洋環境を守る」ようになる未来を目指しています。

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