②製品のデザイン

さて、第二回は「デザイン」についてです。 デザインは分かり辛いと良く言われるので、思い切って多くの皆さんに分かりやすくなる説明を考えました。 ずばり、デザイン(プロダクトデザイン)という仕事は、次の4つで出来ています。

プロダクトデザインのしている作業は、

  1. デザインコンセプトを決める
  2. 製品がユーザーにどんな印象を与えるかを決める
  3. その使われ方(ユーザビリティ)を明確にする
  4. 上記を満たすカタチをデザインする

これだけだと抽象的で少し分かり辛いですので、それぞれについてもう少し説明します。

デザインコンセプトを決める

製品コンセプトが言葉を主体にした製品の特徴をまとめたものであるのに対して、それを実際のカタチに落とし込むための具体的なルールとして設定したものがデザインコンセプトと呼ばれています。

ただ実務上ではデザインコンセプトは製品コンセプトとほとんど同じです。というのは実際の開発現場では、特に中小企業や個人では「何をつくるか」というプロセスを検証していない方が多数派です。デザイナーが彼らに代わって製品コンセプトを決めていることが多いのです。結果、デザインコンセプトと製品コンセプトがほぼ同じものになってしまいます。

デザイナーさんの費用が結構高いことがありますが、その原因の一つはデザイナーが製品コンセプトづくりから関わることにあります。デザイナーがヒアリングを繰り返して作るべき製品の方向性まで整理する作業に、膨大な時間がかかるからだったりするわけです。

ユーザーに与える印象を決める

デザインはデザインコンセプトを元にして、「製品がユーザーに与える印象」を考えます。製品コンセプトは「ひと言で」製品の特徴を表すキャッチコピーでしたよね?対してデザインは「ひと目で」製品の特徴が分かるような、カタチを目指しています。よくあるのが、アナロジー(類推)の力で、イメージをつくることです。

人は形・色などを通して、それが何かを自然に予想する生き物です。「四角くて灰色の物」→「ブロックのイメージ」→「持ち運ぼうとは感じない」という風に無自覚に類推を働かせてしまうのです。類似イメージを想起させることで、説明によらずユーザーに印象を与えることをデザインは目指しているのです。

使われ方(ユーザビリティ)を決める

同時にユーザーが製品をどう使うかを想定して、操作を誘導するような形を検討してゆきます。誰しも取っ手があれば掴みたくなり、ボタンがあれば押してみたくなりますね?こうしたついやってしまいがちな行動を見越して、デザインのカタチを揃えてゆきます。

実際のカタチをデザインする

以上を踏まえて、形状を具体的なカタチにスケッチしてゆくことになります。これは単にスケッチを描くだけでなく、実際に掴んでみたり置いてみたりするために発泡スチロールなどを削ってサンプルをつくるという作業が背景では頻繁に行われています。上記のようなユーザビリティを確認するために必要な作業なわけです。

プロダクトのデザインでは上記のような基本的な要件を満たしていることが前提となるので、カッコよさよりもユーザーに与える印象や、ユーザビリティを優先することが頻繁に起こります。カッコいいデザイン=良いデザインという訳ではないのです。

こうした一連のルールは、製品をユーザーに受け入れて貰って「売れる」製品にするために必要なものです。ここを無視して何となくカッコイイとか今ドキ風だとかだけで判断してしまうと、よろしくありません。ユーザーから見て、「何となくヤダ」とか「惹かれない」製品になってしまうのです。

有りがちな事例

一つ有りがちな事例を挙げます。AB2案がある時に即座に「その中間でもう一案欲しい」という要望、良く聞きます。それ、止めましょう。ちゃんとデザインがなされている場合、ABそれぞれには別々の意図があってデザインされています。中間は本来ないのです。小手先のダメなデザインを追加させるために、余分な費用を払うことになります。なぜA案はこのデザインで、なぜB案はこのデザインなのか、まずその理由をよく聞いてから判断してください。

デザインの適正価格

以上の4つの作業でデザインは進められますが、ではその費用はどの位が適正と言えるのでしょうか?

頼む側からすれば、デザインを依頼する目的は製品が「売れる」ようにするためです。だから絶対売れるならば高くても割に合うし、売れ行きが変わらないならば1円だって払いたくないはずです。でも売れても売れなくても、そこにデザインがどの位貢献したかが分かりづらいので、費用が算定できず難しいのです。

上記に挙げたデザインの工程は、これまで多くの先人が製品を売るために編み出した作業ですから、これを端折ってしまうと売れる確率は確実に下がります。ですからデザインにどこまで労力を掛けるか、費用対効果を判断する必要があるわけで、単純になんでも端折って安くするべきではありません。

時々、友達価格で安くして貰えたと嬉々としている依頼者を見受けます。しかしデザイナーさんの話を聞くと価格相応にサクッと仕上げただけ、という事が多いように思います。安い分、労力を掛けていないわけです。こうしたデザインは売れる確率を大きく下げているので、そもそも無駄金を払っている恐れも高いのです。

もう一つデザインの怖いところは、何となくそれっぽく仕上げたものと、ちゃんと労力をかけて十分な検討をした上で仕上げたものとは、デザインスケッチだけではすぐに区別がつかないことです。だからどうしてこういうデザインにしたのか、丁寧な説明を求める必要があるでしょう。同時にお互いの信頼関係が築けるかどうかデザイナーの人柄を見る、という眼力も依頼者に求められます。

さて本題の価格ですが、一つの目安としてそのデザイナーの月価格がどの位か?そのデザイナーをどの位の期間拘束するか?を基準に考えると良いのではないかと思います。ちゃんとデザインをしようと思えば少なくとも2週間程度は拘束されることになりますし、後はそのデザイナーさんの立場により月当たりに稼がなくてはならない額も決まっているでしょう。一応プロに依頼する場合、20万円を下回る価格になるとどこか手を抜いているか他の稼ぎを当てにしていると考える方が良いのではないかと思います。

単なるカッコよいデザインスケッチの裏には、上に書いたような丁々発止の駆け引きがあるとか、ないとか(笑)。 

如何でしたか?次回はデザインと似ているけれど全然違う、「設計」についてのお話です。