⑤製品の試作(プロトタイピング)

さて、第五回目の今回は「試作」についてです。当たり前ですが、試作には外装のほか、電気基板やソフトウェアの試作もあります。それぞれ重要ですが、初めてプラスチック製品をつくる人向けのシリーズなので、今回は外装や機構についての試作を中心に進めます。

「試作」の目的

製品を試作する目的は、以下のようなものが考えられます:

  1. 自分たちが試作品を評価し、設計の想定通りになっていない所を見つけるため
  2. ユーザーに使ってもらい、使いにくい点を拾い出してフィードバックするため
  3. 量産部品工場に現物を見せ、生産上の問題点を見つけるため
  4. 顧客候補に渡して、実際に欲しいかどうかの意見を集めるため
  5. 試作品を元に、ビジネス展開のための資金を集めるため

近年では投資による資金調達やクラウドファンディングが増え、完成品実物を見せることが当たり前になっています。そのため、外装試作の重要性は高まっています。こうした外装試作は3Dプリンターの普及で非常にやり易くなりました。ただし、3Dプリンターの造形品は品質や強度で一般ユーザーの使用に耐えるレベルではないため、あくまで量産前の評価のために使われることに注意が必要です。

試作のコストについて

試作は、上記のような目的があって行われるものです。目的を満たす範囲であれば必要以上に高い品質にする必要はありませんし、逆に目的を満たせないのであれば試作をする意味がありません。試作における目的意識を常に心に銘じておくことで、冗費を掛けることなく最適な開発ができます。

さまざまな試作の方法

3Dプリンターには多くの方式があり、それぞれに長所短所があります。以下に簡単に説明します。

試作方法略称説明
光造形SLA/DLP光硬化性樹脂の水槽の中に光を当て硬化層を作り、それを積み重ねる方法。表面がきれいに仕上がる。
レーザー焼結(シンタリング)SLSナイロンの粉を1層ずつレーザーで溶かし固める方法。壊れにくい素材で作れるが、表面は汚い。
フィラメント溶解方式FDM樹脂の糸を熱で溶かし、積み重ねる方法。装置がとても安価。
3Dプリンター法(狭義)インクジェット光硬化樹脂をインクジェットで吹き付け、レーザーで固める方法。表面がきれいで精度も良いが、造形時間が長く素材が弱い。
粉末固着法石膏造形石膏にインクジェットで水をかけながら積層する方法。色付けが可能だが、素材は脆い。

3Dプリンター以外の試作方法

試作方法略称説明
CNC切削・削り出しCNC樹脂のブロックをマシニングセンターで削り、形状を作る方法。強度・精度が高い。
真空注型既存製品をマスターとしてゴムで型取りし、硬質ウレタンを流し込んでコピーする方法。

試作の方法と適した使い方

以下の方法で適した試作方法を選びます:

  • 展示会などに出品したい(飾り目的): 「光造形」が適した方法です。光造形のサンプルは磨いて塗装すれば外観上量産製品と遜色ない試作品となり、比較的安価です。「インクジェット方式」も美しい表面となりますが、光造形よりは高価です。展示サンプルが多く必要な場合は、最初に光造形等で見本をつくり、それを真空注型でコピーする方法がおすすめです。
  • 顧客に渡して評価をしてもらいたい: 顧客に使ってもらうためには「壊れない」ことが必要になるので、「CNC切削」や「レーザー焼結」による方法がおすすめです。「CNC切削」は見た目もきれいで強度も強いが、製造コストが高い。「レーザー焼結」は強度が強く、価格も安価ですが見た目がやや汚いです。
  • 店頭に並べて販促サンプルとしたい/小量製作して、実際に販売したい: 量産と同等の材料強度、外観仕上がりが求められます。この場合は簡易型等を使って量産に準じる方法で製造します。100個前後であれば樹脂型、それ以上であればカセット型やアルミ型が使われます。

試作の後で行うべきこと(製造に関して)

製造に関しては、当然電気基板やソフトウェアの試作も並行して行われます。外装が出来上がった後、以下の点に配慮して擦り合わせを進める必要があります。

  1. 電気基板との干渉チェック: 電気部品の寸法はいい加減なことが多く、部品の変更もあります。結果としてケースと基板が干渉することが日常的にあります。
  2. 電気配線の引き回しチェック: 実際に組立してみると指が入らなかったり、組立られないことも良くあります。
  3. 組立の作業性: 試作して初めて分かる問題の一つです。生産性が悪い場合、組立手順を変更したり組立冶具を考案する必要があります。
  4. 電池接点・コネクタ等チェック: 試作で電池接点がズレたり、コネクタが挿抜しづらくなることがあります。
  5. VCCI等の放射ノイズ試験: 基板で多い不具合の一つに放射ノイズがあります。フェライトコアやEMC防御板を追加する必要があるため、試作段階で電気評価を終わらせることが望ましいです。
  6. 通信部分の評価、ソフトウェアの稼働試験の内容検討: 通信モジュールを搭載した製品は通信接続テストが必須です。外装が大きい製品は検査場所が難しくなるため、試作段階で検討しておくことが望ましいです。

通信機能がある製品の出荷前検査は通信接続テストが必須となり、これが意外に大変です。
とりわけ外装が大きい製品は検査場所を見つけるのがかなり難しくなります。
サブアッシーの小さい状態で検査できるような組立検査体制を、試作段階で検討しておくのが望ましいかも知れません。

以上、主に外装試作についての概略を説明させて頂きました。

次回は、「素材」についての紹介です。素材選びに関する簡単なまとめを提供します。