ウェアラブル端末や宇宙航空機器、ドローンなど、世の中では様々な開発品が市場に投入されています。
射出成形やブロー成形といったこれまでの製造法が適用できれば良いのですが、実際は求めるスペックを満たす部品をつくるためには、従来の製造方法が使えないということも増えています。
こうした新しい開発に対応するため、従来の量産方法ではないけれど過去に使用されたことがあって一定の実績がある各種の成形・製造方法について、本章でまとめておきました。
どうしても作れない、という時の参考にしてください。
量産方法一覧
量産方法の名称 | それはどんな方法か |
---|---|
⑦ 注型 | 液状プラスチックを流し込んで、成形する方法 |
⑧ 含浸 | 液状プラスチックを浸透させて、機能を持たせる方法 |
⑨ ハンドレイアップ | ガラス繊維やカーボン繊維を手で積層して造形する方法 |
⑩ コンプレッション | 熱プレスを用いて、射出成形のような賦形をする方法 |
⑪ 特殊インサート成形 | フィルムや構造材を中に入れて射出成形する方法 |
⑫ インジェクションブロー | ブロー成形を射出成形で行う方法 |
⑬ フィルム・シート加工 | 薄いプラスチックを打抜く加工法 |
⑭ 真空成形 | 薄いプラスチックを加熱賦形する方法 |
これらは普通にプラスチック部品を製造する場合には、必要ない方法です。
しかし、これまでの方法ではどうしても作れない形状や強度が求められる際に、このような製造方法があることを知っていることで、思わぬ解決策が生まれることがあります。
本稿では、このような特殊な成形手法について解説します。
(7) 注型
注型は、液状プラスチックを型に流し込み、製品を製造する手法です。試作で行われる「真空注型」の応用と考えられる製造方法です。
- 作り方
基本的に「真空注型」に類似した製造方法となります。
液状プラスチックをシリコーンなどの離型性の良い型に流し込み、硬化後に取り出すことで目的の形状をつくることが可能です。 - 長所
エポキシであれアクリルであれ、主剤と硬化剤の選定次第で硬化物の物性を自由にコントロールすることが出来ます。
また常温液状で加工することから、繊維を混合して強度を向上させたり、フィラーを混合して様々な機能(光拡散性、遮光性、放熱性、磁性など)を付与することができます。
隙間への密着性付与が得意で、製品を完全な防水仕様にするのに適しています。 - 短所
専用のラインを準備して作業することとなり、射出成形のような既成設備よりは立ち上げが面倒です。
また受託業者が少なく、素材に対する知識が必要となります。 - 使用できる素材
エポキシ系液状プラスチック素材、アクリル系液状プラスチック素材、シリコーン、軟硬ウレタンなど。
(8) 含浸・封止・オーバーモールド
注型に近い手法ですが、賦形するのではなく既にある形状に液状プラスチックを浸み込ませ、あるいはオーバーコートして対象物の剛性を高めたり、対象物を隠したりする方法です。
基板上のCPUのオーバーモールドなどによく使用されています。
- 作り方
含浸の場合、減圧下で対象物を液状プラスチック下に沈めてから常圧に戻し、対象物の隙間に液状プラスチックを浸透させます。
その後、加熱等により液状プラスチックを硬化させます。
オーバーモールドの場合、対象物にシリコーンなどで何らかの覆いを作り、その覆いの中に液状プラスチックを充填してから硬化させます。 - 長所
注型と同様、防水に著しい効果を有する方法です。
また、CPUの場合は内部の配線パターンなどが外部から見られないようにするという効果を狙って行われます。 - 短所
注型と同様。 - 使用できる素材
注型と同様。
(9) ハンドレイアップ
ハンドレイアップとは、繊維に液状プラスチックを浸み込ませ、これを積層して固めることで目的の形状を得る製造方法です。
- 作り方
まずガラス繊維やカーボン繊維に液状プラスチックを浸み込ませます。
狙いの製品形状(マスター)の上に固まる前の繊維を重ねていき、積層が終わったら加熱減圧炉に投入して固めます。
硬化後にマスターを取り外し、表面仕上げをして完成させます。 - 長所
金型が不要であり、非常に低い初期費用で大きな製品筐体を製造することが可能です。また、強度も非常に高いものを作ることができます。
繊維としてカーボンを用いれば、全体の重量を軽量化することが可能です。 - 短所
手間がかかるため、量産時の製品単価が高額になる点が欠点です。また、手作業で作るため精度を出すことが難しいです。 - 使用できる素材
最もよく使われるのは、不飽和ポリエステルです。不飽和ポリエステルは常温で液体のプラスチックで、硬化剤を入れることで反応して固まる素材です。耐熱用途などではエポキシも使用されます。
(10) コンプレッション
コンプレッション成形は一言で言えば「鯛焼き」です。
2枚の鉄板を合わせて、中に入れた樹脂を鉄板の内側形状に賦形する製造方法です。
ゴムやシリコーンを作る時に使われる方法ですが、熱可塑性素材にも応用できる製造方法です。
- 作り方
コンプレッションは射出成形機の代わりに、金型を加熱冷却することで溶融固化を型内で行い、目的の賦形物を得る方法で、ヒート&クールに近い成形法です。
- タイ焼きの鉄板のようなコンプレッション型を予備加熱します。
- この中に樹脂素材を入れて、反対側の型で挟みます。
- プレス機でつぶしながら加熱し、溶融するまで数分加熱し続けます。
- 中の素材が溶融するのに十分な時間が経過したらプレス機から取出し、冷却します。
- 型を開いて製品を取り出します。
- 周りにはみ出した羽根部分を、ハサミでカットして製品にします。
- 長所
コンプレッションは金型が単なる2枚の板からなりシンプルで、安く作ることができます。
特に大型の金型になるほど、射出成形と比べてコストの差が大きくなり、有利です。
また射出成形機ではなく熱プレスを用いるため、設備が簡便で大型の部品の成形が行いやすいです。 - 短所
溶融した熱可塑性樹脂を冷却固化させる際のノウハウが重要で、単純に製造ができません。
1ショットの時間が射出成形よりも長く、後処理もあるため、部品単価が射出成形より高額になります。 - 使用できる素材
理論上は射出成形と同様、全ての熱可塑性樹脂を使用することが可能です。現時点では汎用の熱可塑性樹脂、エンジニアリングプラスチックなどが実績としてありますが、スーパーエンプラは実績がありません。
(11) 特殊インサート成形
これは射出成形の応用手法です。射出成形時、金型の中に金属やフィルムを入れることで、複合素材の完成品を作る手法です。
完成物の剛性・強度が必要な時、表面に特殊な仕上げが必要な時などに使われます。
- 作り方
基本的には射出成形と同じプロセスですが、金型が開いた際に金属部品やフィルムをインサートする点が異なります。 - 色々なインサート
a. 金属部品のインサート
インサート成形の中で最も良く知られているのが、金属部品のインサート成形です。
金属をインサートすることで、樹脂の軽さと金属の剛性を両立する部品を製造することが可能です。
b. フィルム・基板のインサート
印刷したフィルムをインサートすることで、製品表面を加飾することが可能です。
フィルム裏側に印刷しインサート成形することで、フィルム部分が保護フィルムとなって剥がれのおきないキレイな印刷表面を作ることができます。また、フレキシブル基板やアンテナ基板をインサート成形することで、筐体自身を電気基板として機能させることができ、収納部分を節約できます。
フレキシブル基板のインサートはウェアラブル端末などでよく使用される方法です。
c. 二色成形の代替としてのインサート
射出成形で二つの素材を使用する二色成形は、二色成形機と二色成形機専用金型を使用するのが原則です。しかし少量生産などでは初期費用が高くなりすぎてしまいます。そこで、1回成形した部品をインサートして、もう一度成形することで二色成形と同様の成形物を作ることがしばしば行われます。
d. 抜けない形状のための駒インサート
本来「抜けない」形状に対して離型性の良い部品をインサート成形して、成形後に取り外すことで金型ではできないと思われていた形状を作ることも可能です。
e. 接着のためのインサート
2部品を接着する代わりに、2部品をインサートしてから一緒に成形することで接着の代わりにすることもあります。
- 長所
インサート成形はアイデア次第で、これまでの射出成形ではできない様々な形状の成形が可能になります。機能性や美観など、様々な要望を満たすことが可能です。 - 短所
複合素材の製品となるため、リサイクルの観点から問題が残るのがインサート成形の欠点です。また、インサート成形は常に人がついて成形することになるため、部品コストが高くなります。 - 使用できる素材
インサートする素材としては、金属やPETフィルムが良く用いられています。
(12) インジェクションブロー成形
ブロー成形は生産量が非常に大量でないと対応できないことが多いので、射出成形機と金型に付加部品をつけて、簡易的にブロー成形品を得る手法です。
- 作り方
インジェクションブロー成形は2段階の工程で部品が製造されます。
最初に通常の射出成形と同様に金型の中に熱可塑性樹脂が注入されます。
次の工程では、成形機のタイバーが開き、金型のキャビ側から製品が離れ、ブロー金型が閉じます。ブロー型が閉じたら、コア側の根元部分から圧搾空気が吹き出して成形物を膨らませ、突出しと連動してブロー金型が開き、成形物が取り出されます。 - 長所
ブロー成形と比較して少量でも製造でき、また通常の射出成形と同様の設備を使用できる点がメリットです。 - 短所
金型構造が複雑で、通常の射出成形金型よりかなり高額です。また、半溶融状態で金型を開いて圧搾エアで広げる条件出しが微妙で難しいです。 - 使用できる素材
理論上、射出成形で使える熱可塑性素材はすべて使用可能です。
(14) 真空成形
プラスチックシートやフィルムの加工法でも、単に打ち抜くのではなくより複雑な形状を賦形するのが真空成形です。
真空成形は溶けかけの板を、形状に貼り付けて(吸い付けて)目的の形状に作り上げる手法です。片側から貼り付けるので大体の形状は作れますが、繊細な形状は作れません。また内側にツメやボスをつけたりすることはできません。コンビニのお弁当箱は大抵この真空成形でつくられています。
- 作り方
まず大きなプラスチックの板を加熱し、溶けかけた状態にします。次に下から空気を入れてプラスチックの板を風船のように膨らませ、そこに金型を差し入れます。金型には細かい吸い付け用の穴が開いています。そして膨らんだプラスチック板を一気に金型に吸いつけます。金型に貼り付いたプラスチック板は、金型で冷やされて固まります。最後に貼り付けたプラスチック板を取り出し、周りの部分を切り落として製品の形状にします。製品肉厚の薄いもの(1mm未満)のものはビク型と呼ばれる刃物で切り落とします。厚みがある場合は工作機械で切り落としすることになります。 - 長所
真空成形でつくられる金型はとてもシンプルなので、製作期間も短く値段も安価です。また真空成形用に多くの素材が発売されており、選べる素材も多くあります。肉厚の薄い製品は成形サイクルも早く、完成品を打ち抜いて取り出せるのでとても安価につくれます。大きな部品を作る場合、射出成形と比べて金型代を安価に抑えられることもメリットです。 - 短所
単に型に貼りつけることしかできないので、複雑な形状を作ることはできません。ボス形状を作ったり、留めるためのツメを作ったりといったことはできません。また同じ厚みの板を引っ張って賦形するため、多く引っ張られた所(角部分など)は伸びて薄くなってしまい、均一な肉厚の製品を作るのは難しくなります。厚みのある製品はサイクルがとても長くなるとともに、カットに工作機械を使うので価格が高額になります。製品の厚み上限は6mmとなります。 - 使用できる素材
最もよく使われるプラスチックは塩ビやアクリルです。薄いものはコンビニ弁当の弁当箱やお菓子箱のトレイなどによく使われていて、日常的に目にしていると思います。厚いものは6〜8mm程度の厚板を用いて加工することができます。厚板を用いた真空成形は使い捨てではなく、大型製品の外装として使われています。医療機器のMRI筐体や、自動販売機の中の表示部品などは、大抵この手法で作られます。