⓪プロダクト作りの流れ ~モノづくりの全体像

テクノラボ代表の林です。

テクノラボはプラスチック外装の企画やデザインから製造までをOEMで請け負ってきました。とても多くの製品開発に関わる過程で、製品が出来上がる全体像を初めから終わりまで通して見てきた経験があります。

はじめて製品を作る方にとって新製品の開発はとても難しく、悩ましいと思います。大まかな知識が、個々の皆さんの立ち位置を確認するのに役に立つのではないかと思います。私たちの経験をシェアできればいいなと思っています。

この原稿を読んでいただく方はどのような方でしょうか?ものづくりの経験が非常に多い方もいらっしゃるかもしれませんが、多くはあまりものづくりに関わったことがない人ではないかと予想しています。ですから、そもそもものづくりの全体像を一番初めに示したほうがわかりやすいのではないかと思いました。

【モノづくりの全体像とプロジェクトマネージャー】

こちらの図をご覧ください。

ハードウェアのものづくりに関して言うと、大きく機構設計、電気設計、ソフトウェア設計の3つの構成要素で出来上がっています。

この3つの要素を取りまとめるのが、プロジェクトマネージャーと呼ばれる仕事です。モノづくりにおいては、必ずこのプロジェクトマネージャーが必要になると言うことを覚えておいてください。

このプロジェクトマネージャー、実は大変重要な仕事を担っています。ものづくりの最初によくデザイナーにデザインを依頼することがあると思いますが、原則論として、最初にデザイナーに依頼するのはプロジェクトマネージャーの仕事です。製品のアイディアをデザイナーに伝え、デザインスケッチを上げてもらうには、プロダクトが満たすべき要件を漏れなく伝える必要があり、プロジェクトマネージャーが責任を持つ必要があるからです。

そもそも企業が製品開発を行うのは、何が売れるかを決めるマーケティングの仕事になります。しかし、マーケティングは何を作ろうとするかを決めることは出来ても、実際にプロダクトを作ることは出来ません。その企業が持つ技術リソースを見極めながら、どのレベルのモノを誰とどう作るかを決めるのもプロジェクトマネージャーの仕事です。そして最終製品がこれらの目標に届いているものになったかを判断するのもプロジェクトマネージャーの仕事です。

プロジェクトマネージャーの仕事が如何に重要かがお分かり頂けるのではないでしょうか?新規事業においてはマーケティングと対をなす重要な役割を担うのがプロジェクトマネジメント業務なのです。

実はプロジェクトマネージャーの仕事はこれだけではありません。こうした基本的なベクトルの下、具体的な外注コントロールを行うのがプロジェクトマネジメント実務だからです。

機構設計であれば、具体的な機構設計を社内で行うか、社外に依頼するか、機構設計に従って試作をする工場の選定、その試作品の評価、試作後に金型を作る工場と部品を量産する工場の選定、そして組み立て工場の選定と管理といった非常に多くの実務が必要となります。

電気設計であれば、回路設計を社内で行うか、社外に依頼するか、回路設計と合わせて部品手配をする商社の選定、回路を配線に設計して基板を製造する工場の選定、部品入荷に合わせて実装する工場選定と検査基準の策定、最後に組み立て工場に納品する際の梱包等のサポートまでが必要とされる業務です。

ソフトウェアであれば、ユーザインターフェースとしてのアプリと、そのアプリが必要なデータを貯めておくバックエンドとしてのミドルウェアの決定、両者をつなぐAPI連携等を自身で行うのか外部のSEに依頼するのかを決定し、実務を行うこととなります。

【プロジェクトマネジメント業務の確立】

プロジェクトマネジメント業務はあまり知られていませんし、知られていてもガントチャートと睨めっこして、担当にはっぱを掛けるだけと思われているように思います。実際には、かなりの仕事量があり、必要とされる知識や決断すべき内容が多いことが分かっていただけるのではないでしょうか?プロジェクトマネージャーは言わばオーケストラの指揮者に近い仕事です。非常に重要でありながら、素人から見るといなくても困らないように見えるわけです。

プロジェクトマネジメント体系がよく理解されているシリコンバレーでは、プロジェクトマネジメントの専門講座が大学にあり、民間でも盛んにプロジェクトマネージャー養成講座が開かれています。シリコンバレーのビジネスのほとんどがソフトウェアビジネスでプロジェクトマネジメントの業務範囲が小さいにも関わらず、です。

さて、新規事業でハードウェアを製造する必要が生じた場合、このプロジェクトマネジメントをしっかり行うことが求められます。その理解がないと、指揮者のいないオーケストラになって、プロジェクトは非常に高い確率で失敗します。

では、力量あるプロジェクトマネージャーが社内にいないし、採用できる見通しもない会社はハードウェアを製造することはできないのでしょうか?必ずしもそうではありません。

上図のように、できないプロジェクトマネジメント業務を極力外部に委任すれば良いわけです。この場合、機構設計、電気設計、ソフトウェアのそれぞれの分野に信頼できるサブマネージャーを置く必要があります。すなわち、外注管理を含めてある程度丸投げできるパートナーを見つけることが重要になります。機構部分であれば設計ができる会社、電気部分であれば回路提案ができる会社、ソフトウェアであればSEがパートナーになりえるでしょう。

自身がプロジェクトマネージャーとしての力量が十分ではない場合、デザイナーや作業する工場に業務を丸投げすることは、とても危険ですのでやめた方が良いでしょう。

次回から具体的な作業の解説に入ります。第一稿は「仕様決定」についてです。お楽しみに。