プロダクトを作る時にはどんな手順を踏むのか?まずは基本的な流れから確認します。
- 何を作るのかを決める
- 製品の外観をデザインする
- 製品の機能を決める
- 製品の機構設計(電気設計)をする
- 試しにサンプルを作ってみる
- サンプルを評価する
- 初期投資して金型を作る
- 部品を製造する
- 付帯部品を手配する
- 製品を組み立てる
- 各種の評価試験をする
- 品質管理をして出荷する
私たちの経験から見ると、ハードウェア製品の開発はこのような流れになると思っています。もちろんこの間に「意思決定」や「資金調達」、「販売戦略立案」など、製造以外の要件も多く絡んできますが、今回はモノづくりに関わる部分だけでお話します。
一番はじめの決定として、「1. 何を作るのかを決める」ことから始めたいと思います。これはあまりにも当たり前のように思われるかもしれません。「何を作るかなんて言われなくても分かっているよ!」とおっしゃる方も多いです。しかし、この部分が「ふわっとしていることが多い」というのが、受託している側が常に感じる実感です。そして開発の失敗の原因として、一番多いのがこの仕様決定に起因していると感じます。
【仕様決定の概要】
製品開発は「売れる製品」の特徴に向かって作り込みをしてゆく作業です。だから最初にゴールがなかったら、そもそも作り込みもしようがないですね。開発作業は確実に迷走しますよね。「製品仕様の決定」はゴールの明確化と言えます。ゴールはどう設定するべきでしょうか?
ゴール設定(仕様の決定)では、次の6つのポイントを抑えておく必要があります。
- それがどこに使われる製品かを決める(製品のドメイン)
- それを誰が使うかを決める(想定されるユーザー層とペルソナ)
- 誰にも一言で分かるように説明する(製品コンセプト)
- ユーザーをイメージしたシミュレーション(ユーザーエクスペリエンス)
- 製品の本質的な機能を決める
- 具体的な製品のスペック(要求仕様)を決める
この6つのポイントは開発現場の立場から挙げたポイントです。最近出版されている多くの経営系テキスト(アメリカのもの)にも大抵挙げられている点を考慮しても、常識的に抑えるポイントと言えるでしょう。
これらのポイントを明確にする理由は、製品の特徴をはっきりさせるためです。今や特徴のない製品は他の競合に埋没してしまって絶対に売れません。どのような製品にも際立ったゴールが必要なのです。
具体的に一つずつのプロセスについて説明します。
どこに使われるか(ドメインの決定)
ポイントの1番目はどこに使われるか?すなわち製品の「切り口」を決めることです。 大括りに見ると、プロダクトはそもそもビジネスユーザー向け(BtoB市場)か消費者向け(BtoC市場)かという切り口で分類する必要があります。それ以外にも、使われる場所、時間帯、組織など、色々な観点が考えられます。
もう一つ明確にすると良い切り口が、ユーザーが他人か、それとも自分がユーザーになりえるか、という切り口です。自分がユーザーになりえる場合は、自分が欲しい物を作れば良いわけです。他人にヒアリングをすることなくとも問題点は明確です。ただし自分が特殊で、他のユーザーと同じ気持ちとは限らないので、独りよがりな開発になるリスクはあります。
ユーザーが他人の場合は、そもそも何が欲しいのかからヒアリングしなくてはいけません。独りよがりにはなり辛いですが、ヒアリングの内容が本音かどうかも分からない危険があります。
こうしたドメインの違いは、どちらが良いというものではありません。しかしドメインによって開発の方向は変わる必要があります。
ちなみにこれまでのOEM開発受託の経験数から見ると、ビジネスユーザー向けの製品(BtoB向け)の場合、他人がユーザーである方が成功率は高い気がします。逆に消費者向けの製品(BtoC向け)では、自分がユーザーであるという方が成功率は高い気がします。
誰が使うか(ユーザー層とペルソナ)
それからもう一つ、一体誰が買ってくれるのかを予想することが製品開発にとっては重要です。ユーザー層はできるだけ具体的であるべきで、単に業界とか役職ではなく、より具体的な人物像に絞り込む必要があり、そうした人物像をペルソナと呼んでいます。
ペルソナを設定する理由は、誰に売りたいのかを極力まで研ぎ澄まして、その人に向けて徹底して製品を作り込むことで製品の魅力を高めて行くことができるからです。特定の人に売れるように研ぎ澄ませた製品の方が、全ての人に売れるように作った製品より作り込みが深く、結局他の人から見ても魅力的になることが多いためにこのようなペルソナ設定をするわけです。
製品コンセプトを決める
コンセプトとは、製品全体を貫く基本的な観点や方向性をまとめた短い表現のことです。「一言でいえば、〇〇」というようなキャッチコピーですね。 当然ドメインとユーザー設定に沿う形で、この製品コンセプトは決める必要があります。コンセプトがあることで、製品開発に関わる参加者同士の意思統一を図ることができます。
実はこの製品コンセプトを決めるのが一番難しかったりするのですが。
ユーザーエクスペリエンスの設定
ユーザー像が決まれば、その人がその製品をどうやって使うかを考えることが想像できます。これがユーザーエクスペリエンスの設定です。ともすると製品開発はあれもこれも機能を盛り込みたくなってしまい、コストが跳ね上がってしまいます。実際のユーザーが使う環境をイメージすることで、何が必要で何が不要かを明確にしてゆくことができます。ここでカスタマージャーニーマップと呼ばれる資料が良く作成されます。興味がある方はネットで調べてみてください。
製品の本質的な機能を決める
ユーザーエクスペリエンスの設定まで行なえば、それを満たす機能を抽出してそれを製品化することになります。この時「最小限必要なもの」が製品の基本機能です。以下の図を使って解説します。
製品の基本機能とは、「一番のターゲット層」にとって「なくては困る」機能で、これが明確ならばエッジの利いた尖った製品が誕生しやすくなります。
具体的な製品スペックを決定する
以上のようなプロセスを経て、製品の基本的な仕様が決定します。仕様を決める際、極力製品の本質的な機能を満たす部分を絞り込むことが望ましいとされています。
慣れていない作り手は万全を期して最大限の機能を満たしたプロダクトを作ろうとしてしまいます。しかしそれは「刺さらない製品」になってしまいます。ユーザーにとっては、逆に訴求力が失われるのです。味噌も塩も醤油も豚骨も全部置いているラーメン屋さんには、何となく入りたくないですよね?それと同じことです。最大限の機能を満たした製品は、また製品の主張が広がりすぎているので、売れなかった時にどこが悪かったかの検証もできなくなります。こうした初歩的なミスに気づかない開発者はとても多いです。開発に関わる時には特に注意してくださいね。
そして満たすべき製品スペックが決まれば、それを満たすべく製品の機能仕様を決定します。ソフトウェア、エレクトロニクス、メカニカルパーツ(デザイン含む)を受け持つ担当企業に対して、その仕様に基づいて指示をすることとなります。
どうでしょうか?「全部知っているよ」と思われたでしょうか、それとも少しは「へぇ~」と思っていただけたでしょうか?でも私たちの経験上、新規に製品開発する方で仕様段階で上記をちゃんと全部考えている人は、案外少数派のような気がします。
こうした作業は、仮説に仮説を重ねた結果で出来上がります。どうしても「この決定は本当かな?」と不安になりますし、実際仮説が間違っている事も多いでしょう。
でもこうした一連の流れを踏んでからスタートすることで、一度思考が整理されていることが大事だと思っています。そうでないとどこが間違ったのかがそもそも分からなくなってしまうので。
仕様の決定作業は抽象的で苦しい作業になりますが、逆にとらえれば考えるだけなので外注費が掛からない作業です。費用対効果は非常に大きいと思いますので、ぜひ取り組んでいただきたいです。
次回は「デザイン」についてです。お楽しみに。