「デザイン」と「設計」は何が違うの?結構多くの方が疑問に思っていることでしょう。
製品の外観を作り上げる作業としてはどちらも良く似ていますが、次の点が違います。 「デザイン」は、使う人をイメージしながらカタチを作ります。デザイン作業はここで完結します。 「設計」は、デザインを元にその部品を作る工場に向け、作業手順を図面に翻訳してゆきます。設計作業はここから始まります。 まずは具体的な作業を通して説明しましょう。
「設計」は「デザイン」が終わってから行われる作業で、通常次のように進みます。
- デザイン画からCADで設計図面をつくる
- CADデータから試作品を作り、それを元に図面を修正する
- 工場と協議して、量産のために図面をさらに修正する
- 量産立上げ中に、状況に応じて図面を修正する
- 製品の品質基準の策定に協力する
それぞれを簡単に説明しましょう。
1. デザイン画から図面をつくる作業
設計の最初の仕事は、デザインスケッチを元にCADと呼ばれるソフトで「図面」を作成することです。 図面にはデザイン画と異なる次の諸点が加えられています。
- 詳細な寸法が全てに記入されていること
- 嵌合等、機能的に成立する構造が検討、反映されていること
- 実際に組立ができる構造を有していること
- 各部品が量産によって製造できる形状を持つこと
最近はCADが普及して、CADでデザインを作成することも多いのでデザインと設計の境目が希薄になりつつありますが、デザイン画は上記の点すべてを満たしていることはありません。
2. 試作品を元に図面を修正する作業
次にCADのデータを元に、試作品を作ります。現在では3Dプリンター等も普及しているので、この試作を行って実物を作ることがほとんどです。そして実物があると多くの人からフィードバックが生まれますし、組付けの隙間など図面では気づかなかった不具合にも気づくようになります。これらを初期図面に反映して、図面を修正してゆきます。
最初の図面作成段階で、全て正しい図面を作れば良いと思う方もいらっしゃるかも知れません。プロなんでしょ、と。残念ながら人は神ではないので、そのように全てを予見して完璧な図面を作るのは100%不可能です。試作品という実物を作った後、それを確認して初期設計の問題点を改良する作業がとても重要です。この工程を経て、最初の図面はより良いものになってゆきます。
3. 工場と協議して量産のための図面を修正する作業
そしてここからがむしろ設計の本番で、量産のために図面を更に調整・修正してゆく必要があります。
典型的な例として、プラスチック部品の量産を考えます。プラスチック部品の量産では、部品の製造に金型を作る必要があります。金型の製造には幾つものルールがあり、製品図面そのままでは問題があります。例えば製品が金型から取り出せるような「抜き勾配」を加えたり、成形で問題になる厚みの違い(偏肉)を修正したり、厚すぎる部分で起こる凹み(ヒケ)を避けるような形状変更をする、といった修正をして、初めて金型を作ることが出来ます。
またこの段階で、設計は製品のコストダウンも考えなくてはなりません。プラスチック部品の場合、金型は非常に高額なので僅かな設計の違いから生まれる金型の製造費用の違いが、非常に大きくなりがちです。量産にあたって設計を修正することで全体の費用を減らすことが重要になります。
金型は開発コストの非常に大きな割合を占める事が多く、これが原因で量産がとん挫してしまうことも多いため、設計としては特に注意が必要です。他にも板金部品やケーブルなど、他の部材でも設計の変更修正によってコストを下げることが出来ることは非常に多くあるため、設計と量産は切り離せない関係にあるのです。
わずかな設計の変更によってコストや品質の問題をくぐり抜けることが出来れば、製品開発の失敗確率を下げることが出来るので、設計は製品開発にとって非常に重要な仕事だと言えます。
4. 量産立上げ中に状況に応じて図面を修正する作業
そして量産の立ち上げ時にも設計の出番が多く生じます。全ての部品が出来上がってから組立を始めると、「実際に組付けが出来ない!」とか、「上手く作動しない!」などといった問題が発生してきます。恐ろしいことですが、これは「日常的に」発生します。
「設計」は最初のデザイン画を図面にする所から携わっているので、問題が発生した場合でもより高所から解決法を提案することが出来ます。部品の精度を見直したり、他の部品で問題をカバーする道を見つけたりすることが出来るでしょう。あるいは余りに生産性が悪い場合にも、組立の手順を変更したり組立冶具を考案したりして、作業性を向上させてゆくことも、当初から設計に携わっている人間だからこそ出来る仕事になる訳です。
製造工場の出身者が良く言う、「お前は製造の怖さが分かっていない」というのはこれの事ですが、設計が積極的にかかわることで、結構簡単に解決することも多いのです。
5. 品質基準の策定に協力する
出来上がった製品が何をもって「良品」とされるのか、恐らく設計した人間しか分かりません。出荷にあたっては、品質の基準を策定する必要があり、しばしばその判断(製品が機能上問題ないか)は設計の助力が必要になります。
【まとめ】設計作業の重要性
以上に述べたような「設計作業」は、担当が一人で全て行うこともありますし、設計・技術・生産技術・品質保証と何部門かが分担して行うこともあります。ですが「設計」とは製造の最初から最後までを通して関わる作業であり、製品開発にとって非常に重要な作業であると言えます。
製品開発の成功は「デザイン」に起因し、製品開発の失敗は「設計」に起因する 結果としてこのような格言が生まれる訳です。
「デザイン思考」の教科書によれば、製品開発の成功を決めるポイントには<有用性><実現性><経済性>の3つがあるそうです。「有用性」はその製品が消費者にとって役に立つかどうか、という価値で、それを創るのはデザインの仕事です。「実現性」は製品を実際に製品として作ることが出来るかどうか、という価値、そして「経済性」は消費者の求める価格で販売しても利益が出るかどうか、という価値です。後者の2つは設計の仕事であると言えます。デザインと設計は、両者が合わさって製品開発において重要な役割を担っている訳です。
時間軸で考えても「設計」の重要性は際立ちます。デザインは、デザイン画を仕上げる所で作業が完結します。それ以上は原則必要ないのです。対して「設計」は、デザインの終了時からスタートして、そこから最終製品が供給されるまで、あるいは量産がスタートした後も、ずっと製品と関わり続けてゆく作業です。もし設計者に裏切られたら、その時点で製品の開発が困難になるのは明白です。
デザインは確かにとても目立ちますが、一度決まってしまえば終われるという点で、大きな失敗にはつながりづらい。対して「設計」は地味な作業ですが、そこを怠ると確実に失敗につながってしまいます。設計とデザインが、わざわざ分けられている意味を分かっていただけましたでしょうか?
次回は製品の設計と双璧をなす、電気設計についてのお話です。