開発カスタマーストーリー「株式会社正洋様」

 

今回の取材先は株式会社正洋代表取締役の川村様です。
テクノラボ社内にて『コンパクト湯沸かし器』についてのお話を伺いました。

私にとって電化製品と言う言葉は、スイッチが並んでいたり、文字の並ぶ液晶パネルがあるような製品を思い浮かべます。ですがこの製品には1つのスイッチしかありません。電化製品としては”無口”な印象なのです。あれこれ複雑な操作方法もなければ、操作指示もありません。でも、無駄な機能がないシンプルな製品の訳には壊れにくいという理由が隠されていました。

 

きっかけは壊れにくい製品への追求

ーー私はテクノラボに入社してこの正洋さんの製品を見るまで携帯湯沸かし器を知らなかったのですが、開発のきっかけは何ですか。

携帯湯沸かし器というのはいわゆる投げ込みヒーターを旅行者用にしたもので、カップ1杯分のお湯を沸かすことができます。
私は以前勤めていた会社でも携帯湯沸かし器を作っていました。その製品はセラミックのヒーターを使っていまして、わき上がりが早く”湯沸かし”の観点では申し分のない人気製品でした。ただその製品には2点の難点があり、この難点が私なりのヒーターを作ろうと思ったきっかけです。」

 

ーー難点とは何ですか。

「難点とはセラミックヒーター自体が高額なため製品も高くなってしまったことと、もう一つは熱い状態から冷たい水に入れると目には見えないヒビが入る場合があったことです。牛乳瓶に熱湯を入れるとヒビが入ってしまうように、セラミックも陶器ですので同様にヒートショックという現象が起きてヒビが入る場合があります。セラミックという素材の特性上どうしてもヒートショックは免れません。旅行先で使えなくなってしまったという問い合わせも受けていました。

会社が変わってからもヒートショックの問題がずっと頭にありました。そこで工業用の投げ込みヒーターのようにステンレスを使ったヒートショックが起こらない製品を作ろうと思ったことが開発のきっかけです。」

 

ーー素材を変え、新しい製品になったわけですが、他にも違いはあるのでしょうか。

「製品を作るにあたってコンパクトであること、世界中で使えること、旅行者が使いやすいこと等性能ももちろん大事にしておりましたが、それ以上にこの製品で重視したのは安全性です。お客さんの手に渡ってしまえば、どういった使われ方をするかわかりません。なので多少の性能は落としてでも、安全な製品にしようという思いでこの製品を作りました。」

 

事故を防ぐ3つのセンサー

ーーどのような安全対策が組み込まれているのでしょうか。

「この製品には3つの安全装置が組み込まれています。具体的に申し上げますと、1つ目は温度を調整しサーモスタット機能を担う『温度センサー』。このセンサーによって空炊きを防ぎます。2つ目は30度以上傾くと同時に電源が切れる『傾斜センサー』。製品を振ると音がするのですが、この音の正体が傾斜センサーです。カップが倒れ机が焦げて火事に発展する事態を防ぎます。3つ目は最終的な安全装置としての『温度ヒューズ』です。

 

 

その他には基板やセンサーは全て国産にこだわっています。切れる想定なのにセンサーの不良で切れなかったということがないよう責任所在をはっきりさせるための策です。これらの結果として3000個近く販売した今でもまだ事故の報告を1件も受けていません。」

 

 

開発で得た知識やルートを活かし、さらに良い製品を

ーー3つのセンサーが入っているこの湯沸かし器、開発にはどれくらい時間が掛かったのでしょうか。

「私なりの湯沸かし器を作ろうと思い始めてからだいたい1年くらい開発にかかりました。基板設計は3~4カ月でできたのですが、プロトタイプを作ってから基礎データの取得やセンサーの調整、環境試験などといった基礎的な部分の調整に時間がかかりましたね。」

 

ーー電気安全法のPSEマークを取得されたそうですね。大手企業だとよく見ますが、中小企業では手間もお金も相当掛かったのでは。

「そうですね。ただ、PSEを前提に電気設計をお願いしていたり、必要事項に関しての相談に行っていたりしましたので、想定していたよりはスムーズに取得することができました。今回PSEを取得した経験はとても勉強になりました。
この知識がお役にたてるような、さらに良い製品にしたいという若い方がいれば相談してほしいと思っています。この製品自体もパテントは取っていないですし。

今後は自社製品以外でも今のルートを生かして海外に出る人、海外から日本に来る人に向けた製品を売っていきたいと思っています。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

○取材を終えて
以前webで28人中1人が海外旅行で保険が必要な事故に遭っているという記事を読みました。日常よりも想定外の事態が起きやすい旅先では「安全性」も重要なファクターなのです。川村さんのお話は私にとって、「必要最小限の機能」と「最大限の安全性」の兼ね合いについて考える機会となりました。
カップに水を入れ、湯沸かし器をセットし、スイッチを入れる。あとはスイッチのランプが切れるのを待つだけでカップ1杯のお湯が沸きます。しかし、簡単な動作の裏では空炊き、転倒、火傷といった事故を防く機能が働いているという安心がこの製品にはあります。
今後も長く愛され、旅先で多くの温かい飲み物を提供するアイテムになるといいですね。